はじめに
どうもpillolowです。
直木賞作家である朝井リョウさんの『世にも奇妙な君物語』を読みました。
テレビドラマ「世にも奇妙な物語」への強烈なオマージュが感じられる一方で、ストーリテラーとしての朝井リョウさんの力量に感服しました、というのが率直な感想です。
…ということで、詳細なネタバレは控えつつ。
【物語の構造】について、僕なりの見解と学びをシェアしたいと思います。
作品概要(ネタバレなし)
エンタメ小説である以上、物語には大なり小なり「読み手の裏切り」が必要となってきます。予想外の展開ですね。
俗にいう「どんでん返し」ってヤツです。
本小説は、計5編からなる連作短編集。
それぞれに”どんでん返し”が用意されつつ、最終編で”大どんでん返し”というような構成で、非常に考えられていると感じました。
簡単に各編の概要(さわり)だけ書くと…
① 『シェアハウさない』
フリーライターである主人公が、取材のためシェアハウスに潜入する。しかし、一体住人は何を”シェア”するために一緒に暮らしているのか。違和感が悪寒に変わった時、主人公は…??
②『リア充裁判』
「コミュニケーション能力促進法」という法律の施行で、通称リア充裁判により若者が裁定されている世界。そんな杓子定規なもので人を評価できるものか。裁判により変わってしまった姉が脳裏から離れない、陰キャの主人公。SNSなんかやっていなくたって、私は私。1対1のコミュニケーションで理解させてやる、と裁判に臨むが…??
③ 『立て!金次郎』
男性では珍しい幼稚園の先生である熱血主人公。保護者からのクレームを受けないことを第一に仕事をしている女性主任のやり方に納得できない。子供たちにはそれぞれの個性がある!輝くべき場所で輝くべきだ!!子供を第一に俺は俺のやり方を貫く…!!
④ 『13.5文字しか集中して読めな』
ネットのニュースサイトで記事を書く主人公。タイトルは半角込みで13.5文字までで本文は3行。芸能人の不倫などのゴシップが結構得意。夫は勤める会社で広報部に異動したが、どうも若い女性の同僚との関係が怪しい。社内広報誌なんて大した仕事でもないくせに…。
⑤ 『脇役バトルロワイヤル』
とある有名演出家(野田秀子 ※ 野田秀樹かよ 笑)のオーディションの最終選考に集められた面々。でも、なんかおかしい。全員が全員、今まで「脇役」を生業としてきた役者ばかりだ。演出家は現れず、部屋を見下ろすカメラで録画されていることに気付いた主人公。あれ?今の俺…なんか「主人公」っぽい?
どんでん返しのパターン
この小説で提示された「どんでん返し」のパターンを図解してみます。物語の構成を理解すると、何か創作するときに役に立つと思いますので、是非参考にしてみて下さい。
この小説の凄い所は、1話~4話で「様々などんでん返しパターン」を題材に、如何にも世にも奇妙な物語っぽい「ゾクッとする悪寒、嫌悪感」を読者に与えるところ。
朝井リョウさんは、あのドラマが相当に好きで、研究もしたんだと思います。このままドラマの脚本になってもおかしくないくらい。
どんでん返しについても、図示すると色々なパターンが見えてきます。
基本的にどんでん返しとは、「視点の変化による」「読者への真実の提示」だと考えていいでしょう。
朝井リョウさんは、1話~4話において、全て違う手法で読者を翻弄します。
①は、主人公の視点しかないが物事の違う側面に気付く場合
②は、主人公視点で見ていた物語を、違うキャラクターの視点で見る場合
③は、主人公と他のキャラクターの従属関係が実は逆だった場合
④は、主人公ともう一人の対立という構造に、第三者の視点が入る場合
よくもまぁ、被らず物語を作れるなぁ、と感心。
そして最後の第5話は、これらをメタ視点(新しい視点)で俯瞰することにより、大どんでん返しに持っていく。
実によく構成された連作短編集ですね。
もちろん1話毎の完成度が高いのが大前提ですけれど。
まとめ
繰り返しになりますが、
・どんでん返しとは、「視点の変化による」「読者への真実の提示」
この短編集の手法が全てだと思いませんが、ひとまずは図示されたパターンを創作に活用してみてはいかがでしょうか。
小説としても面白いですし、物語の構造を学ぶ上でも僕は非常に勉強になりました。